千葉地方裁判所 昭和30年(ワ)274号 判決 1961年5月29日
原告 加藤利喜松
右訴訟代理人弁護士 中村作次郎
被告 久力スイ
右訴訟代理人弁護士 内山誠一
右訴訟復代理人弁護士 花井芳雄
被告 基督兄弟団西千葉教会
右代表者主管者 斎林二
右訴訟代理人弁護士 内藤功
右訴訟復代理人弁護士 雪入益見
被告 江津こと 吉川江津子
被告 小柴昭男
右被告両名訴訟代理人弁護士 戸村一正
同 荻野弘明
同 内藤功
右訴訟復代理人弁護士 柴田睦夫
同 雪入益見
主文
一、原告の請求は、孰れも、之を棄却する。
二、訴訟費用は原告の負担とする。
事実
≪省略≫
理由
一、本件原告の請求は、代位による仮登記に基く本登記の請求とその本登記が為されることを条件とする右仮登記後に為された之と抵触する登記の抹消請求とであることが、原告の主張によつて明白であるから、原告に於て、その主張の理由によつて、右仮登記に基く本登記請求を為し得るか否かが、先決問題であると云わなければならない。
二、仍て、先づ、この点について按ずるに、原告主張の各土地について、夫々、その主張の仮登記が為されて居ることは、成立に争のない甲第一、二号証によつて、明白なところであるが、右甲号各証によると、右各仮登記には、夫々、その名義人である訴外宍倉勝十郎が有した仮登記上の地位が譲渡によつて原告に移転した旨の附記登記(仮登記移転の附記登記)の為されて居ることが認められるので、登記上、右各仮登記の現在の名義人(現在の仮登記上の地位を有する者)は、孰れも、原告自身であると云わざるを得ないものであるから、右各附記登記が存在するままで、右各仮登記に基くその各本登記の請求を為す為めには、原告自身がその各名義人として、その請求を為さなければならないものであり、仮に、本件原告の請求がそのまま認容されたとしても、右各附記登記が存在して居る以上、その各本登記手続は、之を為すことの出来ないものであつて、これは、登記上、右訴外人が右各仮登記の現在の名義人でないことの当然の結果であり、このことは、登記法上の形式主義の要請に基く解釈上の当然の帰結であるといわなければならないものであり、従つて、本訴に於て、原告が為して居る様に、右訴外人を右各仮登記の名義人として、その本登記の請求を為す為めには、先づ、右訴外人に右各仮登記上の名義人たるの地位を回復せしめて居なければならないものであり、その為めには、先づ、右各附記登記を抹消せねばならないという結果になるといわざるを得ないものであるから、登記上、右各附記登記が存在する以上、右何れかの方法によるのでなければ、それに基く各本登記の請求は、之を為すことが出来ないといわざるを得ないものである。
三、然るところ、原告の本訴請求は、前記各附記登記が存在して居るままで、前記訴外人を前記各仮登記の名義人であるとなし、之を前提として、その請求を為して居るものであることは、その主張自体に照し明白であるから、その請求は、右各附記登記の存在することを無視し、若くはそれが存在して居ることに気附かずして、為されたものであるといわざるを得ないものであるところ、その何れであるにしても、登記上、右各附記登記の存在する以上、右の様に前提して、右仮各登記に基くその各本登記の請求の為し得ないことは、前記の説示によつて、明白なところであるといわなければならない。
従つて、原告の本訴請求は、この点に於て、既に、失当であるといわざるを得ないものであるから、他の諸点についての判断を為すまでもなく、失当として棄却されることを免れ得ないものである。
四、而して、右各本登記請求が失当である以上、その後に為された各登記の名義人である被告久力スイを除くその余の被告等に対する各登記抹消請求が失当であることは、多言を要しないところである。
五、仍て、爾余の点についての判断は、全部、之を省略して、原告の請求を全部棄却し、訴訟費用の負担について、民事訴訟法第八九条を適用し、主文の通り判決する。
(裁判官 田中正一)